メディア　オードリー・タンさん　技術の奴隷にはならない

山田（やまだ）道子（みちこ）　元（もと）サンデー毎日編集長（まいにちへんしゅうちょう）

　唐鳳（とうほう）（オードリー・タン）という人（ひと）を知（し）っていますか。新型（しんがた）コロナウイルスであけくれた今年（ことし）、日本（にっぽん）のメディアに最（もっと）も注目（ちゅうもく）された外国人（がいこくじん）の一人（ひとり）でしょう。例（たと）えば「Ｆｏｒｂｅｓ（フォーブス）日本版（にほんばん）」という雑誌（ざっし）で表紙（ひょうし）をかざったのをはじめ、さまざまなメディアにインタビューが載（の）りました。

　タンさんは２０１６年（ねん）、台湾（たいわん）では初（はじ）めて心（こころ）と体（からだ）の性（せい）が違（ちが）うトランスジェンダーの大臣（だいじん）としてデジタル担当大臣（たんとうだいじん）に３５歳（さい）で任命（にんめい）されました。そして、新型（しんがた）コロナウイルスが世界中（せかいじゅう）ではやりはじめたころ、日本（にっぽん）ではマスクが品切（しなぎ）れとなり店（みせ）の前（まえ）に行列（ぎょうれつ）ができましたが、台湾（たいわん）ではタンさんが多（おお）くの人（ひと）の力（ちから）を結集（けっしゅう）してマスクがどこにあるかを示（しめ）す地図（ちず）のアプリを完成（かんせい）させ、マスク争奪（そうだつ）騒動（そうどう）を防（ふせ）いだのです。

　タンさんは、インターネットの政治（せいじ）サイト「ｇ０ｖ（ガブゼロ）」をはじめたメンバーの一人（ひとり）です。このサイトは市民（しみん）がインターネットなどの技術（ぎじゅつ）を利用（りよう）して国（くに）がやっていることやお金（かね）の使（つか）い方（かた）を、市民（しみん）に分（わ）かりやすくみえるようにする運動（うんどう）をしてきました。マスクの在庫（ざいこ）アプリも、この運動（うんどう）があったからできました。日本（にっぽん）では前（まえ）の安倍晋三（あべしんぞう）総理大臣（そうりだいじん）が国民（こくみん）にマスクを配布（はいふ）し「アベノマスク」といわれましたが、なぜ政府（せいふ）が、このマスク会社（がいしゃ）を選（えら）んだのかなどがよく説明（せつめい）されなかったのとは対照（たいしょう）的（てき）です。

　また、最近（さいきん）はインターネットの情報（じょうほう）にはうそが多（おお）く、社会（しゃかい）をまとめる方向（ほうこう）にむかっていないと批判（ひはん）されています。しかし、タンさんはインターネットをうまく使（つか）えば社会（しゃかい）をよい方向（ほうこう）へ導（みちび）くことを示（しめ）しました。

　ところでタンさんは、テクノロジー（技術（ぎじゅつ））にしばられるのを避（さ）けるため、スマートフォンは使（つか）わず、主（おも）にキーボードがあるパソコンを使（つか）うそうです。指（ゆび）でスクロールするだけで簡単（かんたん）に操作（そうさ）できるスマートフォンは、常（つね）に手（て）にしておかないと落（お）ち着（つ）かなくなりそうだといいます。「テクノロジーとはあくまで、人間（にんげん）のお手伝（てつだ）いをしてくれるもの。テクノロジーの奴隷（どれい）になるのはおかしな話（はなし）です」と説明（せつめい）しています（「現代（げんだい）ビジネス」）。スマホのない生活（せいかつ）、考（かんが）えさせられます。

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　毎日新聞社（まいにちしんぶんしゃ）の政治部（せいじぶ）、夕刊（ゆうかん）編集部（へんしゅうぶ）で政治（せいじ）を長（なが）く取材（しゅざい）。週刊誌（しゅうかんし）「サンデー毎日（まいにち）」編集長（へんしゅうちょう）として新聞（しんぶん）を外（そと）から見（み）る経験（けいけん）をして、メディアに関心（かんしん）を持（も）つようになった。１９６１年（ねん）生（う）まれ。