アベノミクス　日本経済よくなった？

柳原美砂子（やなぎはらみさこ）　毎日新聞（まいにちしんぶん）　経済部（けいざいぶ）副部長（ふくぶちょう）

　安倍晋三（あべしんぞう）さんが７年（ねん）８か月（げつ）間（かん）務（つと）めた総理大臣（そうりだいじん）をやめると表明（ひょうめい）しました。安倍（あべ）さんは景気（けいき）をよくするための政策（せいさく）「アベノミクス」を掲（かか）げていましたが、日本経済（にほんけいざい）はよくなったのでしょうか。

　安倍（あべ）さんはアベノミクスの具体策（ぐたいさく）を「三本（さんぼん）の矢（や）」と呼（よ）んでいました。１本（ぽん）目（め）の矢（や）は、お金（かね）を発行（はっこう）する「日本銀行（にっぽんぎんこう）」がたくさんのお金（かね）を供給（きょうきゅう）すること。２本（ほん）目（め）は、政府（せいふ）が景気対策（けいきたいさく）に多（おお）くのお金（かね）を出（だ）すこと。３本（ぼん）目（め）は、さまざまな産業（さんぎょう）を育（そだ）てるための「成長戦略（せいちょうせんりゃく）」を実行（じっこう）すること――です。

　確（たし）かに、１本（ぽん）目（め）と２本（ほん）目（め）の矢（や）の効果（こうか）で、大企業（だいきぎょう）のもうけは増（ふ）え、株価（かぶか）は上（あ）がりました。安倍（あべ）さんは、大企業（だいきぎょう）のもうけが増（ふ）えれば、取引先（とりひきさき）の中小企業（ちゅうしょうきぎょう）のもうけも増（ふ）え、働（はたら）く人々（ひとびと）の給料（きゅうりょう）も上（あ）がる、と主張（しゅちょう）していました。ところが、ものの値段（ねだん）が上（あ）がった影響（えいきょう）を除（のぞ）いた給料（きゅうりょう）は伸（の）び悩（なや）み、景気（けいき）がよくなったという実感（じっかん）は薄（うす）いままです。

　３本（ぼん）目（め）の矢（や）の成長戦略（せいちょうせんりゃく）では、貿易（ぼうえき）を活発（かっぱつ）にするための協定（きょうてい）を多（おお）くの国（くに）と結（むす）んだり、外国（がいこく）から観光客（かんこうきゃく）を呼（よ）び込（こ）んだりしました。ただし、新（あたら）しいビジネスの壁（かべ）になる古（ふる）い規制（きせい）の見直（みなお）しは進（すす）んでいません。ＩＴ（情報技術（じょうほうぎじゅつ））の活用（かつよう）も不十分（ふじゅうぶん）です。新型（しんがた）コロナウイルスの対策（たいさく）でお金（かね）を配（くば）るときも、インターネット手続（てつづ）きがうまくいかず、デジタル化（か）の遅（おく）れがあらわになりました。

　一方（いっぽう）で、国（くに）と地方（ちほう）の借金（しゃっきん）は、２０１２年（ねん）度（ど）末（まつ）の９３２兆（ちょう）円（えん）から、２０年（ねん）度（ど）末（まつ）に１１８２兆（ちょう）円（えん）まで増（ふ）える見通（みとお）しです。安倍政権（あべせいけん）は２回（かい）、消費税（しょうひぜい）を増税（ぞうぜい）し、国（くに）に入（はい）るお金（かね）は増（ふ）えましたが、景気対策（けいきたいさく）などに使（つか）うお金（かね）を減（へ）らさなかったからです。将来（しょうらい）大人（おとな）になる子（こ）どもたちにツケを回（まわ）した形（かたち）です。

　人口（じんこう）が減（へ）る中（なか）、どうやって経済（けいざい）や福祉（ふくし）を支（ささ）えていくのか。日本（にっぽん）が抱（かか）える根本（こんぽん）的（てき）な問題（もんだい）は解決（かいけつ）されていません。アベノミクスが残（のこ）した宿題（しゅくだい）は大（おお）きいと言（い）えます。

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　経済部（けいざいぶ）で、省庁（しょうちょう）や銀行（ぎんこう）、メーカーなどの取材（しゅざい）を担当（たんとう）。趣味（しゅみ）は散歩（さんぽ）や山歩（やまある）き。学生時代（がくせいじだい）は少林寺拳法（しょうりんじけんぽう）をやっていました。１９７３年福岡県生（ねんふくおかけんう）まれ。好物（こうぶつ）は、博多（はかた）では生（なま）で食（た）べることが多（おお）いサバ。